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第7話 転移した先は

作者: うきぐも
last update publish date: 2026-08-29 11:03:18

転移した先は雪山である。

雪の下には何万年も融けたことのない永久凍土が地中深くまで続いている。

極寒の地ではあるが、ソーファンの世界に寒暖を感じるパラメータがないせいか、寒いなとは感じるもののなんとなく過ごせないほどではない。

とりあえず山頂に続く尾根を歩いていた我々であったが……。

「天壇山脈としか情報がないんだけど何処なんだろうね」

マリチは立ち止まって言った。

「山脈って言っても広すぎるな」

「伝承ではもっとも高い二つの頂きと書いてあったから、あの二か所の山頂を目指せばいいんじゃないかな……」

ここから見える山頂はまだ遥か遠くだ。

「足が速くなる呪歌とか歌おうか…?」

日枝さんは恐る恐る提案した。

彼女のサブクラスは『吟遊詩人』だ。

歌に魔力を込めて様々な補助効果をパーティ全員に与えることができる。

迷わずうなずく我々。

ファンタジーの世界は便利だ。走り続けても疲れはステに反映されない。

(けど現実世界ほどではないが疲れるのは疲れる)

呪歌の力で3倍速になった我々はひたすら走り続け、程なく(といっても小一時間)南天峰とよばれる方の山頂に到着した。

山頂は標高も相まって、植物などは一切生えていない荒野である。

一見すると何か生物がいるようには見えないが……。

「ところどころに大きなクレーターみたいな窪みがあるね」

天壇山脈が火山であるという話は聞いたことがない。

なのでこの地形は竜同士の戦いの跡なのだろう。

ということは、ここの主はそう遠くない場所にいるはずだ。

とか考えてると、一番大きいクレーターの前まで進んでいたマリチがこっちを向いて手を振っているのが見えた。

下をのぞき込むと、巨大な灰白色のドラゴンが丸くなっているのが見える。

「さすがに大きいねえ」

「けどがっつり寝てくれて助かった」

「……身体が傷だらけで……ちょっと痛ましいけど」

ゲームだろうが現実だろうが、敵意のないものを攻撃するのは気が引ける。

しかし、彼らの存在は人類に(結果的に)悪影響を及ぼしているので討伐することに抵抗感を持ってはいけないのだ。

ファンタジー世界は現実世界と違い、モンスターや獣人たちとの生存競争が常に行われている場所である。

「早速準備しよう」

「さすがに本気で行こうかね」

どんな攻撃がくるかはわからないが、即死や破魔の攻撃が一番怖い。

光耐性や闇耐性をあげ、防御魔法を張る。

マリチは白く光る魔導書で蘇生付与(瀕死になっても生き返る)、自動回復、物理防御、魔法防御をしたのち、黒く揺らめく攻撃用の魔導書に切り替える。

「わ、私は何したらいいだろ」

一人焦っている日枝さんに対し、マリチが不敵に笑った

「普段通り、魔法剣士の戦い方でいいんだよ。死なないように自己回復優先で」

……死ぬ?

たしかに現実世界でもこっちにきてからも、死を想像したことはなかった。

だが自分よりも強い敵と戦ったら死ぬんだよな。

死に面すると人はかえって生を実感するものである。

「面白くなってきた」

俺は眠っている白竜に対し、閃光(敵の眼をくらますと同時に、敵の注意を強く引き付ける)の魔法を放った。

ギヌロ

微動だにしなかった白竜の目が開く。

だがまだ動かない。

「さあやるよーー!連氷魔法!……からの連水魔法!」

マリチは小さな氷魔法をぶつけた。この魔法は普通の氷魔法ではなく特殊な性質を付与されている。

そこからさらに同じ性質をもった水の魔法をぶつける。

二つの特殊な性質をもった魔法を続けて当てると連携というものが発生する。

連携が発する力場は特定の属性の魔法の威力を超強化する。

「そして~~極大氷河魔法!」

冷気攻撃を超強化する『氷水』連携空間が発生した瞬間、マリチは超巨大な氷柱を白竜めがけて発射した。

「からの、漆黒斬!」

連携は繋がる属性であればどんどんつなげることができる。

氷水連携に土闇属性を持つ技をぶつけると、連携は『漆黒』へと進化する。

ズズズズ……

さっきまでの氷水の力場が、徐々に闇のオーラに包まれる。

「あ! 私も…! 水槍撃!!」

連携は複雑な理論で成り立っているが、日枝さんならこういう教科書的な法則にはおそらく強いはずだ。

咄嗟に属性ダメージの強化される水魔法を合わせている。

さらにマリチも間髪を入れず次の呪文の詠唱を重ねる。

「さあこれでどうだ~極大岩石塊!」

闇連携中のオーラに包まれる白竜の周辺に巨大な岩石がいくつも浮かび上がり、それらが勢いをつけて目標に収束する。

連携時に極大魔法を当てると、ダメージは何倍にも跳ね上がる。

轟音が鳴り響き、地面が大きく揺れた。

土煙が晴れていくのにしばらく時間がかかったものの……

クレーターの中を見下ろしたまま、マリチはぼそっと呟いた。

「……死んだかも」

竜の見開かれた眼は光を失っていた。

「さすがに5%のエネルギーしかなかったから…?というか湊くんとマリチさんが強すぎる」

「俺一回斬っただけだけどね」

「やっぱ死んでるねえ」

マリチの分析魔法が相手のステータスを表示する。

確かにそこには白竜ギイガミアのHPが0であることが表示されていた

「うーん。こんだけの大物でも1ターンキルだったか」

「じゃあ次は北天峰の方に……あ、待った」

「え?」

――。

一瞬巨大な影が天の光を遮ったかと思うと、上空から巨大な影が舞い降りてきた。

羽ばたく翼が暴風を生み、思わず後ずさる。

なるほどそういうことか。

双子の片割れ、黒竜が来た。

そして地面にドンッと四肢をついたそいつは、白竜の死体に勢いよく噛みつく。

何度かガツガツと食らってるうちに白竜の身体は淡い輝きになり黒龍の身体に吸い込まれていった。

と、同時に黒龍の身体にもあったたくさんの傷が消え、身体が大きく膨れあがる。

そして我々三人の方に向き直り……。

ヴオオオオオオオオオ

魂をも揺さぶる咆哮をあげた。

「なるほどこれからが本番ってわけか」

「面白くなってきたな!」

「……いや、私は怖すぎるんだけど」

―――――――――――――――――――――――

真・合体竜の光と闇の混合ブレスも、2倍の威力になった牙も爪も、並の冒険者であれば即死効果のある凶悪な咆哮も、今の俺たちにとってはそこまでの脅威とはならなかったようだ。

何千年もの時を超え、初めて一体に戻った伝説の双竜退治を完遂した俺たち。

俺とマリチがいれば、今この世界に存在しているモンスター達に後れを取ることはなさそうだなと、改めて実感した。

そして……。

少し休憩してから街に戻ると、国家レベルの問題が勃発した。

天壇山脈は世界最大の難所の一つである。

山頂付近は常に瘴気が漂っており人々を寄せ付けない。

世界地図でみると国々の中央付近に位置しており、国家間の領土問題の緩衝地帯にもなっていたのだ

しかし今回のクエスト達成により、その最大の障害の原因になっていたドラゴンが排除された。

それにより山頂周辺の瘴気が薄れはじめ、長らく失われていた精霊力も少しずつ元に戻りつつある

今後は国家の認定を受けた冒険者たちによる探索が進んでいくであろう。

もし重要な遺跡や資源などが発見された場合、新たな領土問題なども発生するかもしれない。

冒険者ギルドに入った俺たちを待っていたのは、受付嬢の大拍手と、集まっていた冒険者たちの賞賛。

そして……山脈を囲む三国の大使館の使者たち

「すごいすごいすごいですーー!! これでBランクですね! ……ほんとはもうマリチさんミナトさんは実力的にはSSSランクなのでしょうけど、ポイント制なのでとりあえずBまでしか上がらないんですよー! 許してくださいー!」 

「ポイント制なんだ」

「あ、カオルさんはEから一気にCランクですね!」

「え、私は補助魔法で支援してただけだから…」

「ギルドランクは基本パーティ内でのポイントなので問題ないですよー!」

興奮する受付嬢に気圧される我々であったが、SSSクエスト達成はギルド発足以来の快挙だそうなのでそれも仕方ない。

そしてランクが上がることにより報酬にボーナスが付いたり、街でうけられるサービスが向上するのでとてもありがたい。

「まさか伝説のドラゴンたちを倒す冒険者がいたとは…」

「竜がまき散らす瘴気で長時間そこにいるだけで死に至るともいわれる地で…」

「最初に嬢ちゃんがSSSクエストを受けるって言った時は大笑いしちまったが、あんた達は本物の実力者だった。非礼を詫びるぜ…!」

「魔妖精の嬢ちゃんもツエエよな……。俺ファンになっちまった」

「実は俺も……」

なんか女子二人にファンが付いとる……

そして――。

この世界に来てからずっと思っていたのだが、俺って影薄いよな。

冒険者稼業には当然ながら依頼をこなす実力が重要である。

だがしかし、大事なことはそれだけではないのだ。

有名になると国家の広告塔になったり、様々な職人ギルドの宣伝活動を担ったりするようになる。

つまり……現実世界で言うところのスポーツ選手のような、スポンサー契約などが重要な人気商売でもあるのだ!

世界にはいくつもの有名な冒険者パーティがあり、様々なギルドが彼らの活動を支援している。

レア鉱石を探しに行く冒険団は鍛冶ギルドや錬金ギルドがスポンサーだ。

遺跡探索メインの冒険者グループは魔術師ギルド(歴史学)の支援を受けていたり等々……

当然人気が出るためにはビジュアルはとても重要である。

冒険者たちが少し露出の多い鎧を着ていたり、野営などには明らかに向かなさそうな、綺麗なファッションに身を包むのにはそういう大事な意味があるのであった。

冷静に考えてみると。

マリチは何度かのクエストのインパクトですでに有名人になりつつある。

魔法の得意な魔妖精族なのにマスターレベルの格闘家であったり。高位の魔法を連発して派手な火力があるのも人気なようだ。

そもそもに魔妖精族の女性はもともと見た目も可愛い。

日枝さんはこの世界の住人とは少し雰囲気が違って純和風の顔整いなので、

今回のデビュークエストの特大インパクトで固定ファンが付きそうだ。

魔法剣士のクラス専用装備も女性が着るとカッコいいので、それを後押ししている

そして俺はというと。

どうにも二人の陰に隠れて目立っていない感がある。

敵の攻撃を受ける盾職はどうしても地味である。

やはりダメージを与えるクラスの方が目立つし人気があるのだ

一人が受けて、もう一人が攻めるほうがバランスがいい。

だからこそ、マリチは攻撃に特化したクラスなのだ。

日枝さんとしばらく組むのであれば、支援系の仕事は彼女にお任せするのが適材適所だろう。

しかも俺は様々な伝説的装備を、現実世界でも装備するため見た目は日常の服装のままに見えるように設定している。

つまり傍目に見ると、凶悪なモンスターの真正面に立ってるのに、何故か大して何もせずに時間を稼ぎ、その間に仲間たちが派手に決着をつけるという構図になっている

……俺の扱いが地味なままなのはずっと変わらなさそうだ。

「さてお三方にお伝えしたいことがあります」

俺が地味問題で一人悩んでいるうちに、いつのまにか目の前には正装をした三国の使者が立っていた。

この世界には6つの大国がある。

中央大陸に3つ、そして辺境に3つ。

もちろん少人数で構成されている部族や、亜人たちの王国もそれとは別に沢山あるのだが、大雑把に分けるとこうだ。

今目の前に立っているのは中央大陸の三国の使者。

ソーファンにおいては自分の所属国として選択できるのがこの三国である。

一人は騎士、一人は魔術師、そしてもう一人は技師に見える。

それぞれの格好はその国の政治形態や役人制度を反映している

三国を代表して私から……と騎士が一歩前に出て話し始めた

よく見るとこの人はオーク退治の時に俺たちを逮捕しかけていたクリクラさんだ。

どうやらこの前の功績で副隊長から、辺境警備の隊長に昇格したらしい。

「この度の天壇山脈に住まう魔竜の討伐、実にお見事でした。さすがの破壊力といいますか、ご活躍と言いますか、実は世界最難関のクエストをもこなす貴殿達にお願いしたいことがございます(早口)」

この人の言葉からは相変わらず少し毒が漏れている。

それはともかく。

今回のSSSクエストは俺のソーファンプレイ時にはなかったものなので、これに続くイベントもきっと新しいものだろう。

やはり未経験の冒険には興味がそそられる。

はやる気持ちを抑えつつ、相手の次の言葉を待った。

「実は天壇山脈には古くから超古代文明の遺跡があることが伝承で示唆されていて、その遺跡の探索のガイドというか…護衛をして頂きたく…」

「ほほう」

「超古代文明の遺跡? おもしろそう!」

俺よりも先にマリチと日枝さんが身を乗り出した。

そしてくるっと俺の方を振り向く。

『やるよね?』

「う、うん。もちろん」

なんか強引に話が進んでしまった。

要は……実力はSSSだけどランクはBとCなので雇われコストも低いし(いちおう特別報酬は出すとは言っているが)人気急上昇中のグループを看板に置くことで、探索団に志願するものも多いだろう、という算段らしい。

まあ俺は新たな冒険を楽しめればそれでいいしな。

古代遺跡には様々な装備や、価値のある魔法道具が落ちていることもある。

今より強い装備があればなおいいが、現状の装備は数年かけて得たようなものばかりなので、今より強い装備の存在にはあまり期待していないが。

「まあ新たなる地で心躍る冒険ができれば、私はそれでいいんだけどね」

マリチが俺と同じようなことを言う。

さすが元俺の分身だ。

未だになんだか不思議な感じはする

出発は5日後。

3日間で探索に参加する冒険者に公募をかけ、それなりの人数のチームを形成する予定だそうだ。

そしてその際に貼られるポスターに、俺たちのイラストが載ることになったのだが……。

マリチと日枝さんはとてもカッコ可愛い風に描かれてるのに、俺だけ勝手にめちゃくちゃ深く兜をかぶって顔とか見えない感じにされてる。

いくらキャラが薄いからって……。

でもその方が集客伸びるんだろうな……。

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